鎌田東二の親分・ディオニュソス=スサノヲの詩心と秘義のルーツ

上智大学法科大学大学院1年 萩原正大さんが、所属ゼミ『ことばと魂研究会』の会員宛に寄せてくれた『絶対絶命レコ発ライブ』感想。それを受けた鎌田東二との往復書簡4通より。

▶︎ 萩原正大さんより(12月19日)
鎌田先生 会員各位
お世話になっております。
萩原正大です。
 
昨日、碑文谷のアピア40にて『絶体絶命』レコ発ライブが開催されました。
私も参加が叶いましたので、本日はライブの感想を投稿させていただきます。
 
歌唱していらっしゃる鎌田先生のお姿を直接拝見するのは今回が初めてでしたが、CDや動画では伝わりきらない詩人としてのほとばしるエネルギーが感じられました。
「みなさん天気は死にました」から「フンドシ族ロック」「世界フンドシ黙示録」に至る一連の歌唱では、多くを知った後で辿り着く狂乱とエクスタシーの境地、更にその状態のもつ一種の悲劇性までもが完璧に再現されており、(あくまでイメージではございますが)古代ギリシャのディテュランボスを目の当たりにしているかのようでした。
悲劇性は「北上」にも色濃く表れており、叙事詩調で東日本大震災の犠牲者を鎮魂してゆく営みに、CDで拝聴する以上に胸が詰まる思いがいたしました。
 
個人的には『絶体絶命』全体に「恋」の動機を見出しておりますが、「恋」に打ちひしがれ、懊悩しつつも、1点の光明だけを頼りに前進する孤高の求道者の姿が今回のライブでいっそう強く感じられました。私が度々想起したのは、スーフィーたちが神に捧げた恋愛詩です。
「神ながらたまちはへませ」に始まり、アンコール2曲目の「弁才天讃歌」で締めくくられた今回のライブそのものが、ある種の神聖な儀式であったとも言えます。KOWさんをはじめ、鎌田先生と共に魂に響く音楽を作り上げてくださった5人のバンドメンバーの皆様にも深く感謝いたします。
 
アンコール前最後の「巡礼」で2回ほど歌詞が飛んでしまう瞬間がございましたが、私にはあれさえもあの場に降りていらっしゃった詩女神のご意思であるように感じます。
「盈(み)つれば虧(か)く」のが世の習いですから、あちら側としては鎌田先生の「巡礼」をまだまだ完成させる予定はないというご意思のご表明であろうと思われます。
 
アピア40の入口付近の壁には古代風のイルカの絵が描かれておりましたが(添付した写真にも映っておりました)、イルカはアフロディーテのシンボルですので、個人的には感慨深いものがございました。
上では詩女神と書きましたが、実際はムーサに限らず、対象はアフロディーテでもイシュタルでもフレイヤ(イズン)でも弁財天でも良いと考えております。全ては受け手の解釈の問題ではないかと思われます。

 鎌田先生、これからも多くの作品を拝見・拝聴したいと考えております。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
 
長文大変失礼いたしました。
 
12月19日 萩原正大


▶︎鎌田東二より返信(12月19日)

萩原正大様
 
昨日のレコ発ライブの感想、ありがとうございます。
 
ディテュランボスとは嬉しい喩えです。
 
わたしは、何十年も前から(たぶん45年前くらいから)公言してきたように、スサノヲの子分ですので、スサノヲがディオニュソスと考えているので、萩原君の指摘は、我が歌祭り~歌儀礼の核心を衝いてくれています。
確かに、わたしの歌の世界は儀式であると以前から認識してきました。
だからこそ、冒頭の法螺貝・石笛・神々への呼びかけが必要なのです。
 
儀式は、しかし、芸能的要素を含んでいたとしても、いわゆる「コンサート」や「ライブ」ではありませんので、そのあたりが、好き嫌いを含めて、いろいろな受け止めや評価があるのだと思っています。
 
昨日のライブは、ただのレコ発ライブではなく、わたしにとっては「遺言」のつもりでしたので、そのメッセージを受け取ってもらったようで、たいへんうれしくおもいました。
 
ありがとう。
 
12月19日 鎌田東二拝


▶︎ 萩原正大さんより返信(12月19日)

鎌田先生
 
ご連絡いただきありがとうございます。
 
なるほど、ここで須佐之男命との関係性が登場してくるのですね!
非常に驚き、興奮してしまいました。
 
ディオニュソス神が①誕生前から深い「痛み」を抱える神であること、②究極的には「亡き母」(セメレ、イーノー)の面影を求めて(心は「泣きながら」)彷徨っていると言えること、③「片親」(一応ヘラはゼウスの正妻ですから、義理の母として位置づけておきます)から「拒絶」された経験をもつこと、④その傷ついた魂を救済するのは狂気に満ちた「歌」(ディテュランボス)しかないと言えること、という4点だけを捉えても、須佐之男命との共通性はありすぎるくらいあると私は思います。
 
ディオニュソス神はギリシャでは元来「客人神」であり、その信仰はギリシャより東方のアジアで発生したとされますが、信仰の発生史という観点に立つならば、ディオニュソス神は牛頭天王と同視し得るように思います。
ディオニュソス神と牧神との関係性、とりわけサテュロスを伴う点に鑑みれば、牛頭天王のビジュアルとの関係性も容易に想起されます。
しかも、言うまでもなく、牛頭天王は一般に須佐之男命と同視されております。
 
神話から捉えたとしても、「自分を歓待した者には幸福を与え、自分を蔑ろにする者には災いを与える」という共通の主題が見出せます。
牛頭天王の場合は蘇民将来の神話、ディオニュソス神の場合は海賊船での神話などによく表れております。
 
以下は私の感覚にすぎませんが、ディオニュソス神は女性性をも兼ね備えた神であると考えております。
ポンペイの壁画にディオニュソスの秘儀が描かれておりますが、ディオニュソス神に共鳴して涙を流し、その過程でディオニュソス神との一体化を果たしている(それこそが秘儀の本質であろうと私は考えます)のは基本的には女性ばかりです。
マイナデス(酒神狂女)も「バッカスの巫女」です。
出口王仁三郎の「瑞の御霊」との関係性が私には想起されてなりません。
 
また、ディオニュソス神を須佐之男命と捉えた場合には、ニーチェのアポロ的・ディオニュソス的という比較を参照して、和歌の祖を下照姫命と捉えるか須佐之男命と捉えるかという議論に持ち込めるようにも思います。
下照姫命も出雲側であり、天照大御神との関連性を直接的には見出し難く、むしろ須佐之男命の系譜に位置づけられるため、厳密な対比は難しいですが、下照姫命のひなぶりの歌の方がより静的な美であるのは間違いないかと思われます。
 
須佐之男命とディオニュソス神との比較をつい書き連ねてしまいましたが、昨日のライブが「歌儀礼」であるとのご指摘に関連して、ライブ中度々先生が「後ろ」を向いていらっしゃった点を想起しました。
一種の神降ろしではないかと現場では考えましたが(後ろの壁にかかっていたギターを御神体と捉えます)、もっと深い鎮魂的要素も込められていた可能性に思いを馳せました(「北上」の朗唱では終始後ろを向いていらっしゃいました)。
釈尊の説法中、「裏」で滑稽な舞を踊って騒ぎを鎮めたことが能の起源譚の1つであった(断片的な記憶で申し訳ありません)と記憶しております。裏や後ろのもつ独特の神秘性(鬼や魔との関連性を含む)を語り尽くすためには、民俗学の知見を多少借りてくる必要があるかもしれません。
 
軽いものは水の上に浮かんでやがては去ってゆきますが、重厚なものは水底にあっていつまでも残り続けると思います。
先生の深い思想が込められた『絶体絶命』、ひいては昨日のライブはいつまでも語り継がれ、ある意味私のような若い世代が(語り継ぎたいからこそ)広く語り継がなければならな いと思いました。
 
本当にありがとうございました。
 
12月19日 萩原正大 


▶︎鎌田東二より返信(12月20日)

萩原正大様 みなさま
 
ディオニュソス=スサノヲの霊性と系譜についてですが、萩原君の指摘の通りの特徴がありますね。
特に、母の問題は微妙です。
 
セメレー人間ですが、ゼウスに横恋慕されて、悲劇的な焼死をとげます。
しかし、熊野縁起のように、死んでもディオニュソスを生んだということになります。
大変奇妙な産まれ方をしている神です。
 
一方、スサノヲは父イザナギの鼻から化生した神とされますが、イザナミが最後に産み落とした火の神カグツチと象徴的に重ね合わされます。
なので、わたしは、スサノヲは、ディオニュソスが「二度生まれた者」と呼ばれたように、1度はカグツチとして母イザナミから産まれたけれども父イザナギに斬り殺され、もう1度父イザナギの鼻から化生する形で生まれ直した「二度生まれ神」だと考えます。
 
その母と自分との二重の痛み・悲しみがスサノヲの暴力と詠歌につながり、ディオニュソスにおいても狂乱の秘義に至るのはその原初的なトラウマゆえだと思っています。
しょっぱなに、悲劇的な生(出産)があり、それは自分だけの問題ではなく、前存在つまり母の痛みや悲しみを引き継いでいるということです。
わたしは、もっとも好きな画家はフランス象徴派のギュスターヴ・モローです(なぜかという、これほど神秘的な緑色を出せる画家はいないからです)が、そのモローの画に、前掲の『ゼウスの雷光にうたれるセメレー』があります。
 
歌は、悲哀の中から生まれる。
どのような喜びの歌の中にも、悲哀が宿っている。
 
そんなアンビバレントなものがあり、そのようなアンビバレンツをディオニュソス=スサノヲは体現した神であります。
 
12月20日 鎌田東二拝
 

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